On the road〜海の街で

海街に家を建てて移り住むまでのよもやまばなし。から始まった、海街暮らしと日々のあれこれ

92cm。

f:id:mahinakea:20200905174402j:plain

「私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。」

私の大好きな吉本ばななさんの小説『キッチン』はこの一文から始まる。

タイトル通りキッチンを心のよりどころにしている、みかげという女の子のお話。

この小説に出てくるキッチンの描写がとても良くて、心に残る。

 

私はその家のご飯を主に作っている人の全てが現れるのが、キッチンという場所だと思う。

実家から嫁いだ私は料理はあまり得意ではなかった。

母に持たされた料理本のメニューを端から繰り返し作っていくうちに、どうにかまともなものを食卓に並べられるようになった。味付けや塩加減も自分で足したり引いたりして、私の味ができてきた。愛用の調理器具も増えていった。

子供のお弁当、家族の好きなおかず、特別な日の御馳走、お正月のおせち。私の家族の毎日は、私の作ったご飯と共にある。家族の体調を考え、栄養を考え、見栄えを考えて作るお料理は、今は私の大好きなことのひとつ。

今まで居心地の良いキッチンには出会えていなかった。結婚して実家を出てから、ずっと賃貸マンション暮らしで何回か引っ越しもしているけれど。キッチンをメインにして設計されているマンションはなかなかないのかもしれない。

自分で家を作るなら今度こそは居心地の良い、私らしいキッチンが欲しかった。

 

結局、我が家のキッチンはオーダーキッチンを専門に手がけるI社にお願いをすることになった。東京の自宅の近くにI社のオフィスとショウルームがあり、ハウスメーカー建築士のHさんにも参加していただき、キッチンミーティングの日を迎えた。

事前にデザインは出来上がっていたので、もの選びから始まる。

まずは人工大理石のフルフラットのL字カウンター。希望色の白と言っても微妙な違いがあり、カラー見本を手に展示されてるカウンターの上で照明も変えて色合わせをしてみる。

そして一番重要なカウンターの高さ。

日本人離れした体躯の持ち主の私にとって、マンションのキッチンカウンターはいつも悩みの種。今のキッチンカウンターは85cmで、長時間の調理時にはやや腰が痛くなる。いくつか検討した有名キッチンメーカーでも、大体は80cmから90cmの間で指定枠がある。それでも、私にはちょっぴり低い。

友人のマンションに遊びに行った時、作ってきた料理を温め直すのにキッチンを借りた。なんとも調理しやすい高さ。その高さを覚えておいた。家で測ってみると93cm。

自分の家のキッチンカウンターに本を重ねて高さを合わせる。

まな板と包丁を実際に置いてものを切ってみた。我が家は友人の商店で扱っている高さ2cmの特製まな板を使っているので、包丁を扱うには92cmで問題ない。もう少し高くても良いかもしれないが、コンロの問題がある。リンナイの4つ口コンロはカウンター上に設置されるので、6cmプラスになる。98cmの位置で炒め鍋を振れたので大丈夫そう。私は青菜の炒め物が大好きだから、鍋を振れるかどうかは大切なポイント。

不意に家を訪れてもいつも美しい姿のエレガントな友人がいる。愛用しているのはバラ模様の5cmヒールのルームシューズ。キッチンには厚みのあるバラ模様のキッチンマットが敷かれている。彼女のような場合は、カウンターの高さには加味が必要かもしれない。

キッチンカウンターは1cm違うだけでも作業に影響するので、普段の調理スタイル、よく作る料理を考え慎重に検討してみた。

シンクの位置、形、素材、色。

水栓の仕様、メーカー、取り付けの位置。

換気扇のスタイル、機能、カラー、取り付けの高さ。

希望のガスコンロも食洗機もオーブンも「大人の事情」無く設えることが出来るので、それらを取り付ける位置。

ひとつひとつ、丁寧に説明いただきながら選んで行った。シンクだけは色で迷ってしまって、その日に決まらなかった。その日になかったカラーサンプルを取り寄せてもらい、再度伺うことにした。

 

長い時間にはなったけれど、ずっとご機嫌だったキッチンのミーティング。

今度こそは、居心地の良いオンリーワンの「私のキッチン」ができる。私がこの世を去った後、このキッチンにいる私を子供や孫が思い出してくれればいいな。

 

次々に片がついていく家づくり。この後、少し痛い目に遭う。

この続きはまた次回。

sea you soon